ガーデニングエッセイ 第8話 私たちはどのような花に親しんで来たか。その1

前回、新元号令和の元になった梅や、桃など渡来の花や、万葉時代の草花について触れました。現在私たちが栽培している花が、何時の時代に渡来し栽培されて来たか、草花を中心に何回かに分けてその概略に触れたいと考えています。

我が国原産でなく外国から来て土着した植物は、外来植物とか帰化植物と呼ばれています。近年貨物と共に意図しないで我が国に入り込んで来たオオハンゴウソウとかオオキンケイギクなどは、繁殖力が強く他の草を駆逐し拡がって従来の生態系を崩すとして、その弊害が指摘されています。

一方、ガーデンで使用する植物は、栽培を目的として外国から導入された園芸種ですが、外国から渡来したため雑草と同じ外来植物の仲間になりますが、ここではあえて外来植物ではなく渡来植物と呼びたいと思います。

以前、このエッセイで愛犬とガーデニングに触れて、犬や植物は長い間交配を重ねて改良されてきても、原産地での基本的な性質は変わらないと記しました。愛犬は極地犬だったため、最初の夏を迎えた頃からそれに気づき、極端に言えばシロクマを飼うつもりに発想を変えました。ガーデニングの植物も、犬に倣い、日本原産か既に我が国の風土に順応している古来の植物か、或いは渡来してから間もなく未だ順応化の過程にある植物なのか、なるべく想いつつ栽培してきました。特に近年渡来したばかりの植物は、なるべくその原産地を知り、そこでの気候に準じて水やりなどを心がけて来ました。

私たちは古来の草花と、近年渡来した華やかな一年草を中心とした草花の種類は、おおよそ常識で知っています。ですからいまさら古典に登場する花について、気に留める必要はないのですが、しかし改めて古典に登場してくる草花を確認すると、ああ、もうその時代から栽培されていたのだと知ると、また新たな感慨を覚えてきます。ガーデニングの基礎知識として、古来の花や植物を把握することは、決して無駄なことではないような気がします。長い歴史を経て多くの人に愛された花を知ることは、ガーデニングを行う上で、自分なりの新たな美の発見にも役立つと想います。

私はガーデニングを始めてから、どうしても空間を飾る花が必要になり、3年後にバラを始めました。そして直ぐにランブラーローズ、オールドローズ、イングリッシュローズと出会いました。更にバラを深く知りたくなり、オースチンやピーター・ビールズの著作を読み、バラが人によって栽培されてきてから5,000年の歴史があることを知りました。オールドローズの歴史を辿ると、バラは長い期間に亘って香水や花のために改良されてきましたが、それもただ自然に続いてきた訳でなく何万人、何百万人のバラに携わった名も無い人たちを経たからこそ、今日までバラが存在していることが判り感動を覚えました。人が生きる上の必需品である食でもなく、香水や花の美しさだけで、人は5,000年もバラを継続させて来たことに、人間とは不思議な生き物だなと想ったのです。またオールドローズ自身、香りだけでなく長く続かせる不思議な美しさがあります。新種が出ては消えていく中で、長い歴史を経ても多くの人たちに愛好されてきた花には、独特な感慨を覚えます。我が国の古典で多くの人たちに和歌に詠まれ、しかも今なお季語になって俳句に詠まれている花には、オールドローズと同じように歴史を経た重みを感ずるのです。

私たちの祖先が、どのような花に親しんで来たか?長い歴史を経ても多くの人から愛好され、心を寄せて来た花々を知ることは、私たち日本人の花に対する美意識の基本を知ることになります。庭に無くても、今でも秋の七草の名を口ずさむだけで、目の前に秋が拡がるのです。ガーデニングは、私たちの心の中にある好ましい自然を切り取って、限られた空間の中で自己を表現する行為ですが、ガーデニングによって作られた庭は、それぞれ作り手の個性が出ます。それには今という時代性が最も良く表現された庭になりますが、それだけでなく、古来私たちが長い間親しんで来た自然の美の世界を踏まえると、いっそう年季が入った深みのある空間になるような気がします。

当たり前のことですが、古典に登場する花を知ることは、どんな植物が強健で信頼できるかが判ります。吉田兼好の徒然草の「家のつくりようは、夏をもって旨とすべし」とあるように、我が国の家は、平安の時代から、つい2~30年前まで、冬の寒さより夏の暑さに耐えられるように、風通しを重視して建てられてきました。我が国は温帯世界でありながらも、夏には世界にも稀な猛烈な熱帯モンスーン地帯に変わります。古人の知恵で、家は暑い夏を過ごすために、壁が少なく建具によって開口部を広く取り、風が抜けられるような作りにして、しかも必ず縁の下を設け地面からの湿気を防いできました。これは雪国でも同じ作りです。

平成に入ると住宅は空調化され、人は地球温暖化によって熱帯夜が続いても、何とか夏を過ごせるようになりました。しかし日本原産の植物や古来の渡来植物は、長い時間をかけて過酷な夏に耐えて土着化して来ましたが、渡来して100年にも満たないバラなどは、未だ土着化の過程にあり、それでもなんとか耐えていますが、デルヒニュームなどの外国産の高地の宿根草は、強い品種も登場しましたが、東北や北海道、信州などを除き、関東以西では中々夏を越せません。

以前、バラ栽培を行う上でヨーロッパと我が国の夏の雨量と平均気温の違いを調べたことがあります。5年間ぐらいのデータですが、6~8月の3か月間、東京とロンドン、パリを比較すると、東京は雨量では3倍、平均気温では10℃高いことが判りました。バラは原産地がユーラシア大陸の西部の乾燥地帯のため、高温には耐えられますが、夏期の雨量の3倍は相当過酷だと思います。その雨量も平均的に降ればまだしも、梅雨時や梅雨末期のゲリラ豪雨、夏の日照りや夏台風の襲来など、我が国の夏はますます熱帯化しています。バラ栽培には水はけ、風通しなど従来と異なる栽培手法が必要になっています。

しかし我が国の気候が夏には熱帯モンスーン期に入ることは、歴史的にもマイナスばかりでなくプラス面も多すぎるほどあります。まず夏が暑く雨量が多いことは、多くの植物にとって成長の機会が与えられており、木々や植物の成長が早く豊かに繁茂します。洪水など災害もありますが、私たちは山地の豊潤な森にも恵まれ、人が住む里には多くの恵みが与えられてきました。雨が降らず水が枯渇する国があることに比べると贅沢な悩みです。

しかし反面放置しても豊かな自然に恵まれすぎた私たちは、植物は勝手に生えてきて自然はタダだという観念が無意識にあるような気がしてなりません。ガーデニング大国でありながら、緯度が高く夏野菜も出来ず、樹々の根が張らない貧困な土壌の英国に比べると、日本人には自然を維持するためにコストがかかるという意識が不足しているように感じています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Comments are closed