ガーデニングエッセイ第10話、私たちはどんな花に親しんで来たか。その3

TVで元号が平成から令和に変わる様子を見ていました。前回のエッセイで古代の草木染について触れましたが、平成最後の日、上皇陛下が退位礼正殿の儀において、延喜式で定められた禁色である「黄櫨色(はぜ)」の袍を着用されておられました。「黄櫨色(はぜ)」の袍は正式には「黄櫨染の御袍(こうろぜんのごほう)」と呼ばれ、櫨の木の芯材の煎汁に蘇芳の芯材の煎汁を加えて作った染料で染められています。上皇陛下は退位のお言葉の中で、民度の高い国民に支えられ象徴の義務を果たせられと述べられておりました。お茶の間でのTVで、「黄櫨染の御袍」を着用された上皇陛下のお姿を見ると、私たち日本人が今でも千二百年前からの歴史の中で生きていることを実感させてくれました。そして新元号の制定によって、私たちの気持ちは一挙に千二百年前の万葉の時代、初春の令月の風和らぐ中での梅を愛でる世界に誘われ、改めて私たちの心に生き続けている花鳥風月を愛でる歴史を、振り返るきっかけとなりました。

鎌倉時代の末期に書かれたと言われる吉田兼好の「徒然草」の現代語訳を読むと、「家にありたき木は」という段で、家にあった方が良い植物は、松、桜、五葉松で、八重桜は異様なもので好ましくはなく、梅は白梅か薄紅梅で、新緑のしだれ柳は最も好ましく、草花では山吹、藤、杜若(カキツバタ)、撫子で、池には蓮が望ましい、そして秋には萩、ススキ、桔梗、女郎花、藤袴、紫苑、吾亦紅(ワレモコウ)、刈萱(カルカヤ)、リンドウ、菊、つた、葛、朝顔が望ましいと語っています。また「折節の移りかはるこそ」の段では、春に始まり夏、秋、冬へと京の季節の行事とともに、梅、桜、藤、橘、山吹、夕顔などの植物に触れながら、移り変わる季節の感慨を述べています。兼好はその中で、植物に触れながら季節の移ろいを感じる気持ちは、源氏物語や枕草紙で言い古されているため、敢てもう言いたくないとも述べています。

草花や樹々に触れながら花鳥風月を愛で、春、夏、秋、冬の季節の変化を感じる現代の私たちの美意識は、平安時代の源氏物語で確立したようです。高校時代、古文は苦手で源氏物語の授業では、何を言っているのか、意味がさっぱり判らず過ごしていました。紫式部と源氏物語はとても偉大と想いますが、今でも苦手な物語であることには変わり有りません。

源氏物語に登場する植物は、古今集に登場する植物とほぼ同じです。ただ源氏物語は木々や草花の名だけでなく、自然描写が優れていると言われています。松田修氏は源氏物語に登場する自然の音の表現で「花に鳴く鶯の声」「水に住む蛙の声」「鳴く虫の声」「萩の上風」「竹渡るかそけき声」「松風の音」「椎の葉音」などを紹介しています。後世、和歌や俳句など文学作品には、源氏物語の自然の描写の数々が引用されそれが積み重なって、今日私たちが抱く自然の風景に対する美意識が形成されて来たのでしょう。

源氏物語に登場する植物の列記は、くどくなってしまうのですが、多くの人の歌を集めた万葉集と古今集の植物と異なって、作者は紫式部1人のため、当時の貴族が親しんでいた植物がよく判るのであえて列記します。

春:草花;ヨモギ、蕨、葵、つくし

木:桜、梅、椿、山吹、薔薇、梨、大ズミ、ミツマタ、枝垂れ柳

夏:草花:菖蒲、藪萱草、朝顔、蓮、石竹(ナデシコ)、露草、紅花、浜木綿、小百合、夕顔、     紫、ホオズキ、ケシ

木:藤、卯の花、桐、橘、クチナシ、センダン

秋:草花:萩、桔梗、撫子、女郎花、ススキ、紫苑、アシ、葛、藤袴、リンドウ、ワレモコウ

木:カエデ、桂、マユミ、栗、クルミ、クヌギ、山ぶどう

冬;松、杉、檜、サカキ、シキミ、椎、ヤブコウジ、竹、笹

その他、妙(コウゾ)、蒜(ニンニク)、葱、苔、紫檀、白檀、丁字、沈香、なども登場します。コウゾは、和紙の原料で、またコウゾ織った繊維は妙(たえ)と言いました。白妙の衣はここからきています。家具に使われる堅木の紫檀、白檀は東南アジア産ですが中国から渡来しました。また丁字、沈香などの香の材料の樹木もこの頃渡来しました。

前回に引き続いて、万葉集に登場する野の植物から、古今集、源氏物語、そして鎌倉末期の徒然草に登場する庭園植物を紹介してきました。樹々は現在とあまり変わっていませんが、草花の種類は極めて少ないです。現在私たちが親しんでいる古来の宿根草の秋明菊や秋海棠など、当時から存在していたように思えますが、これらは室町時代から江戸時代にかけて渡来したものです。

次回は、現在の私たちのガーデンを賑わしている一年草の渡来について触れたいと思います。

 

 

 


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