花のワルツ・ガーデニングエッセイ 第13話 オールドクライマーのノアゼットについて

ノアゼットという19世紀初頭に誕生した、変わった名前のクライマーのグループ

前回は実用バラの極地として,オールドローズのハイブリットムスクについて触れました。今回はハイブリッドムスクと同じくオールドローズの中でも、四季咲きのオールドローズのポートランドとブルボンが登場した時期に現れた、ノアゼットについて触れたいと想います。ノアゼットは四季咲きのオールドクライマーです。

ノアゼットの名を始めて聞いたのは、バラを始めて間もない頃、家内の友人でバラ狂いのお宅を訪問した時でした。支柱に誘引して少し背が高い樹に、ピンクの可愛らしい小花を咲かせたバラを見つけ、名を尋ねたらノアゼットとの事でした。以来ノアゼットという変な名と共に、淡いピンクの小花を咲かせ優雅な樹形のバラが気になって仕方がありませんでした。

 

ノアゼットの誕生にはムスクローズが深くかかわっていました。

オールドローズを真剣に勉強しようとしてピーター・ビールズの「CLASSIC ROSES」を読み始めた事は、前回書きましたが、この中にノアゼットの誕生について触れた文があり、ハイブリットムスクと共にその誕生の物語にとても興味を覚えたのです。理由はハイブリットムスクと同じくノアゼットの誕生に、ムスクローズ(ロサ・モスカータ)が深く関わっていたからです。

私がバラ特にオールドローズに興味を抱いたのは、英国でポールズ・ヒマラヤン・ムスクの咲き誇る姿を見た時からでした。帰宅してから図鑑で調べたらこのバラが、ポールズ・ヒマラヤン・ムスクであることを知りました。私は高校、大学を通じて組織的な登山を行ってきましたが、若き時代には、夢は果たせませんでしたが、曲がりなりにもヒマラヤ遠征に憧れていました。図鑑で調べたバラがヒマラヤの名がつけられているのも、私をこのバラにいっそう掻き立てたのです。ポールズ・ヒマラヤン・ムスクを調べて見ると、英国のバラの育種家ポールがムスクローズやムルチフローラを基にして作出したランブラーローズであることが判りました。

 

ムスクローズとヒマラヤの神秘な香り麝香

ムスクローズとは、西アジアや北アフリカ原産のロサ・モスカータという原種であり、ムスク香(麝香)の香りがするため、ヨーロッパではムスクローズと呼ばれてきました。ムスク香はジャコウシカの腹部の香のうを切り取って乾燥させた香料で、東洋では麝香と呼ばれ強い香りで漢方薬や線香にも使われ、中世ヨーロッパではアラビヤ商人によって幻の香りとして喧伝されていました。ジャコウシカの生息地はヒマラヤ山麓を中心に、ネパール、インド、チベットと辺りで採集されてきましたが、現在はワシントン条約で狩猟が禁止されています。

ヨーロッパ人にとってムスク香は遠くアジアのヒマラヤ山麓の幻の香りとして憧れでした。しかしポールズ・ヒマラヤン・ムスクは実際にはほとんど香らず、英国人の育種家ポールは憧れのヒマラヤ山中のジャコウシカの香りをイメージし過ぎたきらいがあります。早大探検部OBで大宅壮一ノンフィクション賞受賞作家の角幡唯介著「雪男は向こうからやってきた」にもヒマラヤ山中で眼の前を横切るジャコウシカが記述されています。

 

ムスク香は香りの良いメロンや葡萄の語源にもなりました。

ムスク香への憧れは、ムスクという語をマスクに変え、香りの良いという意味で、マスクメロンや葡萄のマスカットなどに使われています。

 

ノアゼットの誕生のあらまし。

さてムスクローズについて記述が長くなりましたが、この項の本題の、ハイブリットムスクと共にムスクローズから生まれたオールドクライマーのノアゼットに触れたいと想います。

ノアゼットは19世紀の前半1825年に、珍しいことにアメリカで生まれたのです。アメリカ、サウスカロライナ州、チャールストンの米作農家のジョン・チャンプニーズが、パーソンズ・ピンク・チャイナ(別名オールド・ブラッシュ)とロサ・モスカータを交配させ、新しいバラを生み出しました。チャンプニーズは、オールドブラッシュを貰ったお返しに、隣人の同じフランス移民のフィリップ・ノアゼットに、ロサ・モスカータと交配して生まれた実生の苗を譲りました。

苗を貰ったフィリップ・ノアゼットは、もう一度交配を行い、それによってできた苗と種子を、パリにいる兄のルイに送りました。苗は花が咲き、ルイは弟からの贈り物がとても重要なバラであることを認識し、弟の名を採りノアゼットと名づけたのです。

 

ノアゼットは優れたガーデニングバラ素材。

バラの中でも最も連続開花性の強い遺伝子を持つオールド・ブラッシュと、強健なロサ・モスカータから生まれたノアゼットは、その後ティ-ローズと交配され、しなやかで優雅な樹形の多くの品種が生まれました。四季咲きのクライマーとして、細い誘引しやすい枝を持ち緑の美しいノアゼットは、壁面やフェンスの背景を作るバラとしてガーデニング素材として欠かせないバラになりました。

私の庭はノアゼットとランブラーと共にありました。

私はノアゼットを知ってから、このバラの使い勝手の良さと優雅さが大好きになり、以来様々な品種を育てて来ました。その中でも一番長かったのはマダム・アルフレッド・キャリエール、一番好きだったのはアリスター・ステラ・グレイでブーケ・ドールやデプレ・ア・フレーヌ・ジョーヌは思い出深いバラでしたが、コガネムシの幼虫にやられてしまいました。今度は昔育てたセリーヌ・フォレスティアに加えてグレパス・キュールは新苗を育ててみたいと想っています。そしてラマルクも素晴らしいバラでした。

 

 

 


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